公開日:2025-06-01 著者:カツ
はじめに──二つのNISAをどう併用するか
2024年に刷新された新NISAは「つみたて枠(年間120万円)」「成長投資枠(年間240万円)」の二階建て設計となり、旧制度と比べて非課税総枠が大幅に拡充された。
一方で、旧つみたてNISAに慣れ親しんだ投資家ほど「結局どの順番で買えばいいのか」「口座を分ける意味は残るのか」「iDeCoは後回しでもいいのか」といった悩みが尽きない。
本稿では非課税の総枠を最短距離で最大化することを目的に、実務的な年間キャッシュフローと出口戦略を緻密にシミュレーションする。読後には、ご自身の家計に即した“二刀流運用”が組み立てられるはずだ。
1.制度概要の整理と“誤解”されやすいポイント
新NISA開始後も、2023年以前の「つみたてNISA口座」で購入した商品は20年間の非課税期間が維持される。したがって、
- 2023年までの買付分 → 旧制度の残存期間で非課税
- 2024年以降の買付分 → 新制度の無期限非課税
という二重管理が当面続く。さらに新NISAでは売却すると“枠が復活”する点が、旧制度と決定的に異なる。長期保有が原則だが、ライフイベントに合わせた取り崩しを「枠を再取得しながら」行えることを頭に入れておきたい。
もう一点の誤解は「成長投資枠=個別株専用」というイメージだ。実際は低コストETF・アクティブファンドも対象であり、インカム狙いの高配当ETFを非課税で保有する戦略が合法的に可能になった。
2.優先順位シナリオ:単身・子育て世帯・セミリタイア前後でどう変わるか
2-1.独身・共働き世帯
キャッシュフロー余裕が大きい層では、つみたて枠満額 → 成長投資枠満額 → iDeCo上限の順が基本形。年間360万円(120+240)をフル活用したうえで企業型DCやiDeCoを追加投入すると、税優遇と複利効果が最も高い領域を取りこぼさない。
2-2.子育て世帯(学資10年以内)
学費ピークが10年以内に来る場合は、つみたて枠 → 教育費目的の成長投資枠(半額)を基本とし、成長投資枠の残りは余剰次第という防御型が無難。出口時期が決まっている資金は為替リスクの低い国内債券ETFあるいは円建て個人向け国債へのスイッチングも検討したい。
2-3.50代・セミリタイア準備層
非課税期間が無期限になったことで、50代からでもNISA活用メリットは大きいが、出口シミュレーションを具体的に描く必要がある。定率取り崩し前提なら、成長投資枠で高配当ETF(例:VYM、HDV)を組み込み、四半期配当を生活費に充当しつつ、つみたて枠は全世界株式で資本成長を担保する二層構造が有効だ。
3.モデルポートフォリオ例(年利想定5〜7%)
年間積立360万円を20年間、加重期待リターン7%で運用した場合、税引き後・インフレ調整後でも約1億2000万円が期待値となる。内訳例は下記の通り。
- 全世界株式インデックス(eMAXIS Slim オルカン)40%
- 米国S&P500インデックス 20%
- 高配当ETF(VYM/HDV)20%
- 全世界債券インデックス 10%
- 国内個別株・J-REIT 10%
リバランスは年1回、乖離5%ルールで自動化を推奨。
4.リスクコントロールと心理的バイアス
実務で最も難しいのはマーケット急落時に「売らない・焦らない・積み増す」三原則を守ることだ。行動ファイナンス研究によれば、含み損10%時点で約60%の個人投資家が追加投資を躊躇する。一方、20年以上継続投資した世帯のリタイア後金融資産中央値は、途中で売却・中断した世帯の約2.4倍に達するとの統計もある(金融庁2024年レポート)。
5.出口戦略:非課税枠を“回復”させながら使う
新NISAの画期的ポイントは売却枠の再利用。具体的には、生活費として年間120万円を取り崩した場合、翌年に同額を再投資しても非課税枠が復活する。この循環を利用すれば、定率4%ルールで30年以上の資産寿命を確保しつつ、余剰を次世代へバトンタッチすることも視野に入る。
6.制度クロス活用の裏ワザ3選
- iDeCo→NISAのロールオーバー:60歳時点で一時金の25%だけ受取・残額をNISA再投資で課税繰延。
- 夫婦二口座で非課税枠720万円/年:家庭内で資金循環させて複利ブースト。
- ジュニアNISA残高の新NISA移管:2024年以降の払い出し自由化を利用し、子ども名義で再投資。
まとめ
つみたてNISAと新NISAを二刀流で運用すれば、家計の可処分所得を劇的に圧迫せずとも1億円を狙える現実的ロードマップが描ける。最重要ポイントは「非課税枠を常にフル稼働させ、売却時にも再利用する仕組みを作ること」だ。
本記事を叩き台に、自らの年代・家族構成・リスク許容度に合わせてカスタマイズし、ブレない長期戦略を構築してほしい。
次回は「高配当株ETFを新NISA成長投資枠で活かす実践ガイド」を予定している。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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